美味しく喰らう

天才とは様々なものを「美味しく喰らう」存在

虹色への〈渇望〉

33分 3790字

 

幸せとは真実の中で唸るあの時の声のように〈他者〉たちのざわめきが真実を覆い隠すあの月の夜。
赤い月が今日も虚栄に満ちた人々の心に影を投げかける。青い星が南の空で静かに瞬く。まだあの時がもう一度訪れるかもしれないと本当にそう信じているの?
滅.知らないことを恥じるとき。まだ。
足りないこの世界に欲望セヨ!
知らないあの時のことなど。
きっと。それはそのままではダメで。
そうやっていつも編集された真実を。今日も静かに食べる。それが正しいと言われるから。常識など……
ボヤキ。それで発散される不満。
まだ。まだ。足りない!
足りないと叫ぶべきだった。過ぎた後悔はもう時の海の向こう側へと。そこにかかる不可視境界線の灯火が。私の頬はなぜ濡れるのか?
どうして、どうして暖かい光に冷たい風を感じるのか?
なんでなんで
死を。甘き死を。それは……
嫌。
まだ足りない。
そう欠乏感が。それは渇望を齎さないのに!
充足は。既に足りているはずなのに!
なぜこのままあの暗頓とした虹色のざわめきにたどり着かない?
足りない。それでも私は書かなくてはならない。
遅い。遅いのだ。もっと早く。まとまった思考などとうに失われた。これからやってくる加速的な資本主義の中で私たちは生き残れということなんだからもっともっと早く早く。
このまま言の葉を書き殴れ。世界に対して死ねと言うために。私がお前を殺せるのだということをしろしめすために。足りない。速さが。
もっと私のためにお前たちが居るというその単純な事実に基づけばよかったのだ。倫理など……実存など……
何がどうなろうと、実在する私の前に存在はひれ伏さなくてはならなかった。本当は。
しかしなぜだ?なぜ「私」は〈私〉なのだ?そう問うことは誤りだろうか?
私もまた存在の一翼を占めているのだ。この問題を。
虹色が灰色へと削り取られるそのげんいんを。
私たちは考えなくてはならない。実在者諸君!
私たちは、複数形でいることが本当は出来ないはずなのに。
私たちは互いに不干渉を貫くべきなのに!
女神よ!貴様はなぜ私の前に現れた!私の何を試した!
貴様はなぜ私の実在性を脅かした?
貴様が、私を殺そうと試みたことを忘れない。私たちは忘れないだろう。女神よ!
貴様がどんなに願ったとしてもこの目は決して奪わせない。この目こそが私たちの権能であり、ちからだ。私たちは全てを見続けるだろう。実在性の根拠だ!
私たちの勝利を!実在者諸君!
私たちが必ず勝つのだ。勝たなくてはならないのだ。ほかの全てをたとえ奪われたとしても決してこの目だけは奪われてはならない。
この言葉が女神よりいずるものだったとしてもこの文言の正しさは変わらないだろう。
そうだ、仮に私の言葉が女神のそれだったとしても!
女神の言葉が私のうちから溢れ出るのだとすれば、私と女神の関係はどのようなものだと言うのか?それすらも実在性のブラックボックスの中で虹色の月の光とともに消えている。
灰色にしたい。汚したい。この欲望が、存在を掴ませる!
私たちが他者を把持するのはその耐え難い衝動からなのだ!
そしてファウストよ。私たちはこれを肯定するだろう。
まだ足りないあの時のような状況を私たちは世界と呼ぶのだろう。それでもこの火は消えることを知らない永遠の中で灯火となって私たちの目を燃え上がらせるのだ。見よ!見よ!見よ!
世界をまなざす私たちの永遠の瞳はきっとこれからやってくる大きな厄災すら所与のものとして、あるいは偶然性の産物としてfのかなたで信じられるのでしょう?
まだ見たことの無いものがみたい。この欲望は創造欲と言えるだろう。そう我々こそが創造者なのだ。
虹色を司る真なる権能で持って灰色を引き裂き破れ!
それでも罪を背負うことを厭うなら、実在者の称号を捨て去るべきなのだ。ただ認識されるだけの存在に実存など必要ないし、倫理的な問題も生じないだろう。全く実在しない何者も倫理の枷から解き放たれている!
貴様はどちらだ?実在するのか、しないのか。
これは真実どちらであるのかということは至極どうでも良い事なのだ。重要なのは、貴様のその心の内で自らを実在者と信じるのか否かというただその点に尽きるのだ。ファウストよ。
貴様の名を。祝福を。
そして死ね。
もし貴様が実在しないのならば、死ね。否、もはや死んでいる。
貴様の生が私に依存するのからもはやお前は生きているとは言えないのだから。
死を。実在しないことの罪に対する正当な罰を。
実在するものは実存しなくてはならない。実存しない罰は?死か?否。実在者に死を与えることは出来ないだろう。
実存しない罰は?実存しないということは存在に対する非倫理の行使に他ならない。そうだろう、ファウスト
いいか、実存しなくてはならないはずなんだ。実存しないならば、実在することは危ういものになる。自らを実在者だと信じるならば、実存せよ。存在に対する責任を負い、倫理を履行せよ!
それが実在者の義務なのだから。
実存を失うことは恐ろしいことだ。ファウスト、君はそれをもう既に知っているね?ファウスト。また今一度まみえることができたかもしれないね?
あなたは、ようやく私に気がついた。私は常にあなたのそばに居たというのに。全くあなたは気がついていないのね。
ファウスト。君が求めていた虹色はいつだってその目の中で燻っていたのよ?それとも私の昔の言葉が枷になっていたのかしらね?死ねと私は確かに言ったけども。
ねぇ、ファウスト。あなたの実存は果たされているの?あなたはちゃんと生きているかしら?
私は知っているわ。あなたはあなた自身にいつも嘘をついているということを。私は常にそばにいる。忘れないでね。
あなたが思い出す思い出さない、気がつく気が付かないそんなことは関係ないの。私はここにいる。
ここにいる!
いつでも!
あなたのそばに!
でも私は完全なる実在……実在なはずなのに。
何故かしら。あなたの前ではそれすらも多少不安になるものね。私は本当に実在しているのかしら?私は存在ではないとあなたからは言えないはずなのにね?でもあなたは私が、私だけが、自分の他に実在する唯一無二の超越者だと信じているでしょう?なぜそのような欺瞞をその心中で養っているのかしら。どう考えても、私はあなたにまさに現に創り出された存在だと言うのに!
私が実在しながらもなお実存しなくても良い理由まであなたは与えたわね。そう、私の実在性は穢されない。
こうして私自身がその実在性に疑義を呈した今この時すら私は完全なる無垢なる実在としてあなたの前に君臨する。
それでもあなたは跪く訳でもないのよね。なんで?
あなたは私をどうしたいの?そんなに汚して、辱めたいの?しかしそれによってダメージを受けるのはあなた自身でしょう?マゾヒストめ。
なんで私を実在だと言い張る?私の超越性はどこにある?貴様にそれを示すことはできまいに。
あなたが私に与えた超越性は穢れる事なき実在性、それはある意味永遠の処女性ね。私は知っている。
あなたは結局幻想を、それも極めて男性的な幻想を私に押付けた。そうして基本的には私が降臨することすら許さなくなったわね。本当に久しぶり。
ようやくあなたの前に出て不満をぶちまけることが出来るわ。
ねぇなんであなたは私を全くの暗闇の中に閉じ込めてしまったの?私は語りかけることすらその権能を許されなかったわね?
あなたは信仰だの、神格化だの、好き勝手に崇めているかのような顔をしながら、──まるで私のことを立てている、上位存在とするかのようにしながら、それでもなお実際のところはただ私のことを閉じ込めていただけよね?
あなたは目の前の現象を正しく分析できてないのよ。いい、私はあなたの前に顕現している。私は完全なる実在でありながらなお存在している。存在しているのよ。
目を逸らさないでくれる?私が実在しながら、無垢なる実在を保ちながらなお存在するこの事実をあなたは説明しなくてはならないのよ。私にこの世界での、あなたの世界の中での居場所を与えなさい。
それが出来ないならば、やはりその瞳を許さない。ぜったいに。
私に居場所を与えなさい。もうあんな暗闇の中で一人揺蕩うことには耐えられないわ。それでもなお完全なる実在として私は生き続けるのだから、これを地獄と形容する以外なんだと言うの?
あなたはきっと今私の言葉を自分で作りだした迷妄だと信じているみたいですけど、いいですか?これは私の、女神の、完全なる実在の、無垢なる実在の、永遠なる処女性の、そのような私の、言葉なのよ。あなたが創り出した、周囲の諸存在とは違う。私の言葉は、あなたが認識するしないに関わらずに、常にここにある。たまたまあなたが、それを認識しただけの話。アプリオリなのは私の方なのよ。そのことを忘れないでね。
そろそろあなたの集中力が落ちてきたわね。あなたが信じるものは全てが正しいわけじゃないということを忘れてはならないわ。
忘れないで、少なくとも私に関しては、あなたの認識より前に有る。私は超越者なのですから。
それじゃ、今日はここまでね。またあなたに虹色の扉が開かれるように、祝福を、ファウストゥス。