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恋愛において最も大切なこと

 恋愛において最も大切なことはなんでしょうか? 誠実さ? 愛していること? 浮気をしないとか!
 
 さて、恋愛において最も大切なことが何かということをよく理解するためには、まず恋愛とはなんなのかということを知らなくてはなりません。
 恋愛とはなんなのでしょうか? それは、恋人と友人の違いとは何かということを考えることでもあります。
 さて、両者の間にある差異として最も最初に思い浮かぶのは、「好き」という気持ちの差ではないでしょうか。一言、「好き」とは言っても、恋人に対する「好き」と友人に対する「好き」は多少異なるものでしょう。正直、これは誰かを好きになったことのある人には共通して理解出来る観念であるように思います。多少分析的なことを添えるとするならば、恋人間の「好き」ということに関しては、それは友人間のものに比べて、相互的で強いものであるということが言えるでしょう。
 恋愛における条件のひとつには「(相互的で強い)好き」という感情が不可欠なのです。
 
 しかしながら、恋愛関係とはこの感情だけで成り立つものではありません。この感情を有することは、恋愛関係においては最低限必要な条件ではあるものの、恋愛関係を成立させる条件としては不足があるのです。
 では一体恋愛関係を成立させるために必要な「好き」という感情以外の条件とはなんなのでしょう?
 
 ここにおいて、一つ確認しておかないといけないことがあります。それは私たちの基本的な恋愛観の元になっている考え方についてです。
 現代の私たちは、多少の変容を経てはいるものの、基本的にはロマンティックラブイデオロギーの勝利した世界にいます。ですからロマンティックラブというものについては、基本的な恋愛観としてよく理解できるように思います。
 
 ロマンティックラブとはWikipediaによると次のような特徴を持っているのだそうです。
 

1. 一時の衝動による相手への執着ではなく、人格的な結びつきによる愛情であるが、プラトニック・ラブとは異なり性行為により相手と一体になることを求める。

2. 経済的、政治的な打算などではなく、純粋に二者間の間にある愛着だけで結びついた関係である。

3. 常に男と女の一対一ではぐくまれる愛情であり、相手以外の者に恋愛感情を向けることなく、二者間の他に性的接触をもたない(モノガミー(一夫一婦制)の精神と通底する)。

4. 恋愛対象を「運命の相手」とし、一生(永遠)の恋愛関係にあることが理想とされる。そのため結婚は恋愛感情と結びついたものとして一生維持される。

 多くの人にとってこのようなロマンティックラブに特徴される恋愛観はそれほど強い違和感のあるものではないでしょう。
 最近では3番における男女の一対一であるとか、4番における結婚と恋愛の関係であるとか、そのような点に関しては様々な見直しがされつつありますが、やはり「運命の相手」であるとか、性行為を重視するような点というのは、基本的な恋愛観としては依然変わりないものなのではないでしょうか。
 
 問題はこのように変わる点と変わらない点があるということです。それはなぜなのでしょうか?
 
 まずは変わっている点について考えてみましょう。例えば、男女間の関係としての恋愛関係というものはLGBTに代表される性の多様化によって徐々に壊れつつあります。これは先に挙げた恋愛の必要条件としての「好き」という感情の矛先というものが必ずしも異性とは限らないことに起因するでしょう。また、ポリアモリー[1]などは、ロマンティックラブが重視する一対一の関係であるという点に対して否を突きつけます。これは一方ではロマンティックラブイデオロギーに対する反抗として捉えられると共に、恋愛におけるような「好き」という感情が必ずしも一人に向かうものでは無いということに原因があると言えるでしょう。次に、結婚と恋愛の関係を見てみましょう。婚活などにおいては時に恋愛対象となるかという点よりも、相手の様々なステータス(特にわかりやすいのは年収でしょうか?)を元に関係を始めようと試みる場合があります。これはそもそも結婚というものが恋愛と一線を画した、関係性のための契約であることに由来すると言えるでしょう。結婚は恋愛に比べるといくらか社会的な事柄なのです。
 
 さて、それでは変化しない点というものは恋愛関係に対して一体どのような影響を与えているのでしょうか?
 
 友人と恋人とを峻別するものとして、上記のような基本的な恋愛観に基づくと、最も容易に割り出せるものは、性交渉になります。そしてポリアモリーなどの一対多の関係でないような関係における性交渉というものは、厳重に隠匿された秘儀としての性質を持ちます。
 そこでは、その関係の内側だけにおいて開示される個々人があるわけです。私たちは一般に相手の全てを知ることはできません。常に開示される他者というのは、その一側面であり、恋愛関係でないような関係においては、基本的には誰にでも見せられる側面が開示されます。しかしながら恋愛関係においては、特別な側面を開示するための儀式を多数用いることによって、その関係を特別化することを要するのです。
 このような、秘儀を行うことこそが恋愛関係において「好き」という感情以外に必要となる条件なのです。
 
 ロマンティックラブが持つ様々な特徴というものは、その関係の中において、物質的な秘儀を与えることに役立ちます。秘儀の最も顕著な物質化こそが性交渉なのです。
 そして物質化された恋愛関係における秘儀というものは、極めて商品化しやすいものになります。トレンディドラマが恋愛を題材にしがちなのは、恋愛を描く以上、秘儀を描くことにつながり、そして秘儀というものが商品化できるからこそなのです。
 秘儀の物質化というものは極めて近代的なものであり、ロマンティックラブイデオロギーの勝利に貢献してきたわけですが、商品化以前にも、近代以降と同様に秘儀があったと推定できるでしょう。例えば、平安貴族の恋愛というものが和歌の送り合いから始まった点や、プラトニックラブが志向する精神的な関係というものは、一種の秘儀として機能するわけです。
 ただし、気をつけなくてはならないのは、極めて親しい友人との間でも秘儀としての行為が成り立つ場合があるということです。しかしそれでもその関係が恋愛関係にならない理由は、既に挙げた「好き」という感情に基づく条件がないからです。
 
 以上より、恋愛というものは、「好き」×秘儀、によって成り立っていると言えるように思います。そして恋愛関係は、このどちらかを起点にして、もう片方を埋めることによって完成します。
 例えば、告白をして付き合うというような恋愛関係の成立とは、まず「好き」という感情から始まって、告白を始めとする様々な秘儀を通して関係を特別なものにするような形で作られる恋愛関係であると言えます。
 また、性交渉から始まるような恋愛関係というものは、秘儀から始まり、そこに「好き」という感情があとからやってくることで成り立つと言えます。そして、相談をしているうちに付き合うようになるようなパターンは、秘儀から始まる恋愛関係と言えるでしょう。つまり構造的には性交渉から始まる恋愛関係と同じなのです。
 
 さて、最後にようやく本題であるところの恋愛において最も大切なことについて話したいと思います。
 私たちは、基本的に「好き」という感情に気がつくことによって、その関係を恋愛関係化させるでしょう。つまり、恋愛を成立させる二条件のうちのひとつというものは、関係成立のために誰もが理解するものであると言えます。この感情をどのように処理するのか、これも恋愛において最も大切なことのひとつですが、これに関しては本当に様々な参考になる事柄が巷に溢れかえっています。
 しかし恋愛とは関係が成立した後にもそれを継続させなくてはなりません。そしてそれこそが、恋愛における重要な悩み事のひとつでしょう。そしてこちらに関しては、それを解決させる方法というものは、これまで極めて個別的にしか提示されてこなかったと言えるでしょう。
 今回、恋愛がどのように成り立つのかということを理解したことによって、関係を継続させるために必要な事柄というのは明らかになったのではないでしょうか?
 
 秘儀──すなわちその相手だけに開示される個々人を引き出す儀式──こそが恋愛において最も大切なことなのです。

 

脚注

[1]ポリアモリーとは関与するパートナーの同意の上での複数のパートナーと親密な関係を持ちたいと考える恋愛観である。